英国政府が約1000億円の「主権AIプログラム」で、コーディングベンチマークで米国AIを上回
英国政府が約1000億円の「主権AIプログラム」で、コーディングベンチマークで米国AIを上回る英国企業Cosineを初のパートナーに選定した。機密データを国外に出せない防衛・金融・原子力インフラ向けに、38言語対応のレガシーコード保守能力と国内完結型セキュリティを兼ね備える。欧州最強スーパーコンピュータでのモデル訓練も可能となり、英国の「AI輸入国」からの脱却を目指す。

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何が起きたか
# 英国が「主権AI」で選んだ企業、その実力はベンチマーク上位常連 英国政府が5億ポンド(約1,000億円)を投じる「Sovereign AI programme(主権AIプログラム)」の最初のパートナーに、英国のAI企業Cosineが選ばれた。OpenAIやAnthropicといった米国のAI大手をコーディングベンチマークで2年連続で上回ってきたこの企業は、なぜ英国政府から注目されているのか。
「AIを輸入する国」から「AIを作る国」へ そもそも「主権AI」とは何なのか。一言で言えば、自国のインフラ上で、自国のデータを使い、自国の法規制に従って運用できるAIシステムのことだ。 今のAI市場を眺めてみると、OpenAI、Anthropic、Google、Meta——いずれも米国企業だ。欧州からはMistral(フランス)が台頭しているものの、大半の企業や政府機関は米国のAIモデルに依存している。これが何を意味するか。データが米国のサーバーに送られ、米国の法律が適用され、米国の企業の判断でサービスが変わる可能性があるということだ。 英国政府が5億ポンドを投じるこのプログラムは、そうした依存関係を断ち切り、英国独自のAI能力を構築するための取り組みだ。Cosineが選ばれた理由はシンプルだ。同社のAIモデルが、コーディング能力において世界トップクラスの実績を持ち、かつ英国国内で完結する唯一のエンドツーエンド・プラットフォームだからだ。 Cosineの共同創業者であるYang Li氏は「英国はAIの『受け手』ではなく『作り手』であるべきだ」と語っている。この言葉は、今回の政府投資の意図を端的に表している。
9歳でアプリをリリースした創業者と、2億人を超えたサービスの立役者 Cosineの創業者2人の経歴は、なかなか興味深い。 Alistair Pullen氏は2018年からAI製品を開発しており、9歳で最初のiOSアプリをリリースしている(9歳といえば、日本では小学3年生だ。私が9歳の頃はゲームボーイでポケモンをしていた記憶しかない)。もう一人の共同創業者Yang Li氏は、シェアサイクルサービスのMobikeを4大陸で2億2000万人のユーザーに拡大し、同社は550億ドル(約8兆円)で買収された。 Cosineは2022年に創業し、Y Combinator(米国の有名アクセラレーター)の卒業生だ。これまでにLakestar、SOMA Capital、Gaingelsなどから800万ドル(約12億円)を調達している。
38言語に対応、レガシーコードとの格闘 Cosineのプラットフォームが対応しているプログラミング言語は38以上。PythonやJavaScriptのようなモダンな言語だけでなく、Fortran、COBOL、Ada、Verilogといった「レガシー言語」も含まれている。 ここが重要だ。英国の防衛システム、原子力インフラ、金融サービスの基盤を支えているのは、こうしたレガシー言語で書かれたコードだ。COBOLなんて、1960年代に開発された言語だ。今でも銀行の基幹システムで使われているが、開発者は年々減っている。Fortranは科学技術計算向けで、原子力関連のシステムで現役だ。 つまり、Cosineがやろうとしているのは「最新のAIで、古いコードを理解し、保守・改良する」ことだ。これは実務的なニーズに基づいたアプローチだと言える。
「機密情報は国外に出せない」という現実 ここで、Cosineが選ばれたもう一つの大きな理由に触れておきたい。セキュリティだ。 英国の防衛関連企業や重要インフラの運営者にとって、コードを国外のサーバーに送ることは、法的にも運用上も禁止されていることが多い。機密性の高いプロジェクトに関わるコードを、OpenAIやAnthropicのクラウドサービスに送るわけにはいかないのだ。 Pullen氏はこう説明している。「Cursorや<a href="https://www.amazon.co.jp/s?k=Claude++英国政府が約1000億円の「主権AIプログラム」で、コーディングベンチマークで米国AIを上回&tag=None" rel="nofollow noopener sponsored" target="_blank" class="affiliate-link" data-platform="amazon">Claude </a>Codeは素晴らしい製品だ。しかし、多くの顧客にとって法的に使えない」。CursorはAI搭載のコードエディタ、Claude CodeはAnthropicのエージェント型コーディングツールだ。どちらも便利だが、コードが米国のサーバーを経由する。 Cosineのプラットフォームは、顧客のインフラ内で完全に動作する。インターネット接続は不要だ。データは建物の外に出ない。外国の管理下にあるモデルに依存しない。これを「エアギャップ(air-gapped)」環境での運用と呼ぶ。物理的に外部と切り離された環境でAIを動かせるのだ。 Pullen氏は「セキュリティを後からクラウド製品に追加するのは、本質的に異なる」と指摘する。最初からオンプレミス(自社設置)前提で設計されたシステムと、後からセキュリティ機能を追加したシステムは、根本的に異なるという主張だ。機密情報を扱う現場では、この違いを理解している人が多いはずだ。
欧州のスーパーコンピュータでモデルを訓練 今回の政府プログラムを通じて、Cosineは英国のAI研究リソース(AIRR)から50万GPU時間を割り当てられた。使用するのは「Isambard-AI」——欧州で最も強力なスーパーコンピュータの1つだ。 GPU時間というのは、GPU(グラフィック処理装置、AIの計算に使われる)をどれくらいの時間使えるかという単位だ。50万GPU時間は、金額にすると数百万ポンド相当のインフラ価値がある。 これまでCosineは「エアギャップ環境で動作するAI」を提供できていたが、モデル自体の訓練に使うインフラが英国国内で完結しているとは言えなかった。このGPU時間の割り当てにより、モデルの訓練から推論まで、すべてを英国国内のインフラで完結できるようになる。 Li氏は「これまで『モデル自体が主権インフラで訓練された』とは言えなかった。AIRRの助成金がその最後のピースを埋めた」と語っている。
日本読者にとっての意味 このニュースは日本にとっても示唆に富む。 日本も同様に、防衛、原子力、金融インフラにおいてレガシーコードの問題を抱えている。COBOLで書かれた銀行のシステム、古い言語で書かれた官公庁のシステム——これらを保守できる人材は減る一方だ。AIによる自動化は、現実的な解決策になり得る。 また、日本でも「主権AI」の議論は始まっている。経済産業省が2024年に発表した「AI産業強化法案」でも、国産AIモデルの重要性が指摘された。データの国外流出への懸念、特定の国への依存リスク——英国がCosineを選んだ理由は、日本にも当てはまる。 ただし、日本には英国のCosineに相当する「国産で、かつベンチマークで実績のある」AI企業が存在するだろうか。現状では、日本のAI企業の多くは米国の基盤モデルを利用するか、独自モデルでもベンチマークでの実績が限定的だ。この点は、日本のAI政策が直面する課題と言える。
今後の焦点 Cosineへの投資は、英国政府の「AI主権」戦略の第一歩だ。Sovereign AI Fundのベンチャー部門は、Cosineの次回資金調達ラウンドへの参加オプションも確保している。政府として、単なる助成金の給付ではなく、エクイティ(株式)投資の形も想定しているということだ。 今後注目すべきは、Cosineがこのリソースを使ってどのようなモデルを構築するかだ。特に、レガシーコードの理解・生成能力がどこまで向上するか
背景
AI分野では新機能の発表そのものよりも、どの業務に使えるのか、既存のワークフローにどう組み込めるのかが評価を左右する。今回の発表も、性能だけでなく実運用での使い勝手まで見ておく必要がある。
重要なポイント
読者にとっての論点は、機能の新しさよりも導入判断に値する差があるかどうかだ。企業や開発者にとっては、既存ツールとの競合や置き換え余地まで含めて見ていく必要がある。
今後の焦点
続報では、提供条件、料金体系、既存モデルとの差、実際の利用例がどこまで示されるかを確認したい。
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