設立2年のロボットAIスタートアップが1,000億円調達交渉中。「ロボットの脳」に評価額1.1兆円がついた
Physical Intelligenceは設立2年でロボットの汎用AI(「脳」)開発に特化したスタートアップ。約1,000億円の新規調達交渉中で、成立すれば評価額は1.1兆円超となる。ChatGPTが言語を汎用化したように物理作業の汎用化を目指す。日本のロボット産業への影響も大きい。
設立2年のロボットAIスタートアップが1,000億円調達交渉中。「ロボットの脳」に評価額1.1兆円がついた
Physical Intelligenceという会社が、約1,000億円(10億ドル)の新規調達に向けた交渉を進めている。成立すれば評価額は110億ドル(約1.6兆円)を超える。設立は2023年。まだ2年しか経っていない。
この会社、ロボット本体は作っていない。
Physical Intelligenceは何を作っているのか

Physical Intelligenceが開発しているのは「ロボットの脳」だ。ハードウェアではなく、AIモデルだけを作っている。
コンセプトはシンプルで、洗濯物を畳む、コーヒーを入れる、倉庫で物を仕分けるといった物理的な作業を、どんなロボット機体でもこなせるようにする汎用AIを作ること。
今のロボットは専用機が多い。工場用ロボットは工場でしか動かない。手術ロボットは手術にしか使えない。それはロボット側の問題ではなく、「脳」が専用設計されているからだとPhysical Intelligenceは考えている。汎用の「脳」さえあれば、あとはどんな機体にも乗せられる。そういう発想だ。
ChatGPTが言語を汎用化したように、Physical Intelligenceは物理作業を汎用化しようとしている。
なぜ2年で1兆円になったのか
創業メンバーが豪華すぎる、というのが正直なところだ。
CEOのKarol Hausman(カロル・ハウスマン)はGoogle DeepMindのロボティクス部門出身。共同創業者にはチェルシー・フィンやセルゲイ・レビンといった学術界のスター研究者が並ぶ。スタンフォード、UCバークレー、カーネギーメロン大学のロボット研究の最前線を走ってきた人たちが集まってできた会社だ。
最初の大型資金調達は2024年の7億ドル(約1,000億円)で、このときの評価額は約26億ドル。今回の交渉が成立すれば評価額は4倍以上に膨らむことになる。わずか1〜2年で。
AIブームの中で「次はロボット」という流れが加速しており、OpenAIもFigureも1Xも同じ市場を狙っている。競争が激化する前にリードを確保しようとするVCの動きが、評価額を押し上げている。
「ロボットの脳」がなぜ重要なのか
Amazonの倉庫には今も大量の人間が働いている。仕分けや梱包は、ロボットにとってまだ難しいからだ。
Physical Intelligenceの技術が成熟すれば、こうした「人間がやっている単純作業」の大部分が自動化される可能性がある。外食チェーンのキッチン、病院の搬送作業、農業の収穫——全部、ターゲットになりうる。
ただし実用化はまだ先の話で、現在は研究段階。2024年に公開したデモ映像は印象的だったが、制御された環境でのものだ。現場で安定稼働させるには相当な距離がある。
評価額1.1兆円は、技術の今ではなく未来に対して払われている金額だ。
日本への影響と、見ておくべきこと
日本のロボット産業は世界トップクラスだ。ファナック、安川電機、川崎重工、ホンダのASIMO——製造業ロボットの歴史は長い。しかし「汎用AIでロボットを動かす」という方向性は、これまでの日本の強みとは別の軸だ。
Physical Intelligenceが開発しているのはソフトウェアのレイヤーで、日本の製造業ロボットメーカーにとってはパートナーにも競合にもなりうる。
2026年現在、トヨタリサーチインスティテュートやソニーもロボットAIに投資しているが、$10Bを超えるスタートアップと正面から競争できるかどうかはまだ見えない。
注目すべきは調達完了後の製品発表だ。今年中に実用製品がどの市場に投入されるか、そのスペックが「本物かどうか」を判断する材料になる。
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