「光ファイバーの時代」に225億円を銅線に賭けた企業がいる。Kandou AI、SoftBank・Synopsysから資金調達
AI業界が光配線に殺到するなか、スイスのKandou AIは銅線の限界を突破する技術で2.25億ドルを調達。SoftBank・Synopsysらが参加し、業界の常識に逆張りを仕掛ける。

AIの大規模クラスタを動かすデータセンターで、いまもっとも深刻なボトルネックは「チップ間のデータ転送速度」だ。数千〜数万基のGPUを束ねるトレーニング環境では、プロセッサ間の通信が全体の消費電力の30%を食い、信号劣化のせいで銅ケーブルの到達距離は1メートル未満に制限される。
業界の主流な答えは「光に切り替えろ」だった。 Ayar Labsは2026年3月に38億ドル評価で5億ドルを調達。 MarvellはCelestial AIを32.5億ドルで買収し、銅の25倍の帯域幅を謳うフォトニクス技術を手に入れた。
AI向け光インターコネクト市場は2025年の37.5億ドルから2033年には183.6億ドルに膨らむと予測されている。
その流れに真正面から逆らう企業が現れた。
スイスの半導体企業Kandou AIが、シリーズAで2.25億ドル(約340億円)を調達した。リード投資家はMaverick Silicon、SoftBank・Synopsys・Cadence Design Systems・Alchipが戦略的に参加。企業評価額は4億ドル。
「シリーズA」という呼称には注意が要る。Kandouは2011年創業で、以前は「Kandou Bus」の名前でシリーズB・Cを含む1.63億ドル以上を調達済みだ。リブランドと経営陣の刷新——Goldman Sachs出身のSrujan Linga氏がCEOに就任——を経て、AI半導体企業として再出発した形になる。
銅線はまだ終わっていない
Kandou AIの核心技術は、創業者でEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)教授のAmin Shokrollahi氏が発明した「Chord」シグナリング方式だ。複数のワイヤに相関信号を送ることで、帯域幅を2〜4倍に拡大しつつ消費電力を半減させる。
同社の主張によれば、Chordはシャノン限界に迫る効率を実現し、消費電力とシステムコストを10分の1に削減しながら、銅リンクの速度を448Gbps以上まで引き上げられるという。もしこれが事実なら、光配線への数十億ドル規模の移行投資の一部は「時期尚早」だったことになる。
投資家の顔ぶれが語る戦略
SynopsysとCadenceは電子設計自動化(EDA)ツールの二大巨頭であり、彼らの参加は純粋な投資というよりKandou AIのIP(知的財産)を自社設計フローに統合する意図を示唆している。台湾のASIC設計企業Alchipは製造への橋渡し役、SoftBankはスケール資本と戦略ネットワークを提供する。
つまりKandou AIの技術は、同社独自のチップとしてではなく、他社のチップ内部にライセンス提供される可能性が高い。これはArmがモバイルプロセッサで築いたモデルと構造的に同じであり、資本効率の高い市場支配ルートだ。
光か、銅か。AIインフラの配線を巡る数百億ドル規模の賭けは、まだ決着がついていない。
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